ジェス・ラーディエル〜プライベート・リアクション2

『理想と本物、言葉ではなく』


英雄になりたいっていう気持ちは今でも変わらないはずなのに、なんか最近はひっかかるモンがある。前は英雄物語に憧れてたけど、俺が感じていた憧れってヤツは、本物の英雄とは違うような気がしてきた。逆に作られたような活躍ってのは癪に障るようになった。

初めはゲイルロードのことも疑ってた。だけど、彼の人柄を知れば俺自身が思い描いていたゲイルロードとは違うかもしれないよな。そう思ったら、ゲイルロードのことが知りたくなった。ゲイルロードは英雄公爵と呼ばれているが、本物の英雄ってのは単なる物語の主人公って訳でもないんだな、きっと。ゲイルロードだって、大切なモンのために自分の道を選択したのかもしれねぇし……。


じゃあ、俺の大切なモンって何だ? 家族や部下は確かに大切で、俺にとってはかけがえのない存在だ。まあ、そんなことは口にして言えることじゃねぇけどな。……照れ臭いしよ。

そう言えば、父さんがこんなこと言ってたっけ。

「本当に大切なものを見つけた人は、自分を幸福か不幸かという尺度では考えませんよ」

これって、どういう意味だ?

父さんが言っていたことは、今でもよく分かんねぇけど、自分が幸福かどうかってんなら、俺は十分幸せだと思う。母さんが病気で亡くなった時、この世の終わりって気もしたけど……それでも俺は生きてる。俺は母さんの子として生まれて良かったと思ってるし、それが幸せってんなら幸せなんだろう。

「幸福というものは、他人が決めることではない。自分で感じることだ」

祖父ちゃんが言ってた言葉……これは俺でも分かるな。お前は不幸だと言われても、俺が幸せだと感じていれば幸せなんだしな。あの子に出会ってから、そうした気持ちが強くなった。

本当の幸福ってのは初めから誰でも持ってるのに、理想を追い求め過ぎて、自分にとっての本当の幸福がなんなのかって忘れちまうヤツが多い。それって、悲しいよな。気がつかずに苦しんでいるのを見るのは……つらい。本当の幸福はすでに自分の中にあるってことを実感できないから苦しいんだよな。


「ジェス……あなたの思った通りに生きなさい」

母さんの遺言……息を引き取る前、母さんは笑ってた。あの時はなんで笑っていたのか、分からなかった。今は、なんとなく分かるような気がする。それを説明しろと言われても、説明できねぇけどな。そういや、自分の思った通りに生きたとしても、望み通りの人生とは限らないわって、母さんは笑いながら言ってた。思った通りにやっていても、思い通りになることは少ないってことだよな。

自分の思い通りにしようとするから、かえってうまくいかなくなる? うまくいかないから、自分は不幸だって言うヤツもいたな……それって、根本的に勘違いしてるんじゃねぇの? うまくいかないってことは、自分のやり方が間違ってるってことじゃねぇの? 俺が言うのもなんだが、それって単なる我がままにしか見えねぇんだけど。

それでも、自分の信念を貫き通すってんなら話は別だ。やるならとことんやればいいし、そういうヤツってのは嫌いじゃねぇしよ。中途半端で自分は不幸だって決めつけるのは、見てて逆にかわいそうだなって思う。

そう考えると、今の俺にはこれといった信念ってのはないのかもしれない。無いってのは、ちょっと違うか。見つけてる最中って言った方がしっくりくるかもな。俺が本当に見つけたいモンは、信念かどうかもはっきりしねぇんだけど、何かを見つけたいっていう気持ちがあるのは確かだ。

それが何なのか、はっきりしねぇから正直不安もある。それ以上に、知りたい気持ちの方が大きいから、なんとかなるかなって。なるようにしかならないとは思うが、今は自分の感じたことを大切にしたい。それが今の気持ち。

 

(完)


【プレイヤーより】

今回のプラリアはPCヴィジョンです。第1回から第2回の間でジェスが感じていたことを書いてみました。こうして書いてみると、ジェスも意外と考えているみたいですね。ちょっとびっくり。

ちなみに、文中の『あの子』というのは、こるりさんのことです。言わなくても分かるかなとも思いましたが、念の為に……。


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