アースに戻って一ヵ月後、東京へ向かった。
鹿原こるりは、時折深い溜め息をついていた。 新幹線に乗っている間は、あまりしゃべらなかった。 事情を知らないジェス・ラーディエルは、こるりが何故落ち込んでいるのか分からなかったが、敢えて何も聞かなかった。 ただ、少しでもこるりに元気になって欲しいと思い、話しかける度にとびきりの笑顔を見せた。 そんなジェスの気持ちを察して、こるりは無理に笑い返していたが、相手の気持ちを知った今、心の中に自分でもよく分からない違和感が沸いてくるのを感じていた。この違和感が何なのか、今のこるりには分からなかった。
「……どこで待ち合わせだっけ?」 プラットホームに降り立つと、ふいにジェスが言った。待ち合わせの場所は前もって聞いていたが、話すきっかけが欲しくて、わざと尋ねた。 こるりは考え事をしていたせいか、呼びかけに気がつかなかった。こるりの態度が気になったのか、ジェスは無意識に相手の腕をつかんでいた。 腕をつかまれ、こるりは反射的にジェスから離れた。 「……ご……ごめんなさい。ぼーっとしてて……」 「……。……いや……気にすんなって」 ジェスが微笑む。だが、こるりの心は晴れるどころか、ますます違和感が募るばかりであった。 ジェスの顔が見れなかった……。 その瞳に不安が隠されていたのが分かってしまったから……。 沈黙に耐えられなくなったジェスが同じことを尋ねると、こるりは微かに震えていた。 「……。……東京タワーの……展望室です」 それだけ言うのが精一杯であった。 ジェスはちょっと考えた後、こるりに『ここで待ってて』と告げた。そして、近くにいた駅員に東京タワーでの道程を尋ねる。Gパンにトレーナーといった格好をしていたせいか、ジェスは外国から来た観光客だと思われていた。駅員に礼を言った後、ジェスはマップを持って戻ってきた。 「トーキョー・タワーまでの道、聞いてきたから」 ジェスが言うと、こるりは無言でうなづいた。 しばらくの間、二人は何も話さずに人混みの中を歩いていた。 信号が赤に変わり、立ち止まる。こるりがちらっと横目で見た時、ジェスは顔を赤くしていた。 その理由に気がつき、こるりはまたもやうつむいてしまった。 ジェスがこちらへ来てしまったこともあり、こるりは本当のことを言う勇気がなかった。今さら……自分に何が言えるのか……。 本当のことを言ったら、ジェスはどう思うだろう……。 『カインくん』は、自分の中では確かに存在している。 この想いは消えない……。 だから、言えなかった。 本当のことを……。 「……展望台で待ち合わせって言っても、こう人が多くちゃ見つかんねぇな」 ジェスが何やらぼやいていることに気付き、こるりは顔を上げた。 すると、見慣れた人たちが立っているのが目に飛び込んだ。 「ジェスくん、あっちに……」 こるりは仲間たちと再び会えたことで、自然と笑顔になっていた。 それを見たジェスも、本当の微笑みになっていた。 |