長崎に来て、10日くらい経ったか……? こっちの生活に完全に慣れた訳じゃねぇけど、神父さんが良い人で、いろいろと気を使ってくれる。そういうこともあって、毎日が楽しい。なんとなく俺の父さんに似てた。分かっている癖に、何も聞かない所とか。 毎日のように『散歩』と称して外出していたら、ある日、神父さんがこんなことを言った。 俺は即答した。タダで泊めてもらってるんだ。掃除だけじゃ、気持ち的に物足りないと思ってたから、何か手伝いができるってのはうれしかった。 手書きの地図と、少しのお金をもらって買出しに行った。すると、近所のおばさんたちがいつものようにやってきた。 「まあまあジェスくん、こんにちは。これからどこ行くの?」 おばさんたちの質問攻めは、ザムソンの下町で慣れてるから、適当にかわす。ホームステイってのは、よく分かんねぇけど、とりあえずうなづく。きっと神父さんが気をつかって、ホームステイとか言ったに違いない。 世界は違えども、アースの神父さんは俺みたいな訳の分からないヤツでさえ受け入れてくれた。ホントにうれしかった。帰ったら、また神父さんにお礼を言おう……。言ったら言ったで、「私の方こそ感謝していますよ」とか言われそうだけどな。 神父さんに頼まれた買物を済ませた後、買物袋を片手に、こるりサンんちの前を通る。立ち止まると変に思われるから、普通に通り過ぎる。 「……ジェスくん?」 後ろから声をかけられて、俺はドキっとした。ゆっくり振り返ると、こるりサンが学生鞄を持って立っていた。あっちにいた時に聞いたけど、こるりサンは学校に行っているらしい。 「……今、帰り?」 俺はちょっと焦りながら言った。なんとなく気まずかった。 「……はい」 こるりサンは、小声で言った。 「んじゃ、えーっと……俺、用があるから……」 苦笑いをしながら立ち去ろうとすると、こるりサンはぎこちない笑顔でこう告げた。 俺はさらに緊張してしまった。ちゃんとしゃべれただろうか? 頭が真っ白になり、自分が何を言っているのか途中で分からなくなっていた。俺がさよならと言うと、こるりサンも同じように言った。 そして、小走りで教会へ戻った。 こるりサンが俺のことどう思っているのか、まだよく分からねぇけど、真実を知るまではここにいるつもりだ……。 なんてのは、単なる言い訳だ。 俺はただ、こるりサンと離れたくなかった。 ホントは、それだけの理由だった。 |